ある任意売却案件で、契約書を作成する段階になって、少し法律に詳しい買主から売買契約は双務契約のはずなのに、「債権者の抹消同意」特約が入ると、片務(へんむ)契約になるとクレームが来ました。
私は、物件を紹介した段階から買主の仲介業者に対して十分な説明をしてきたのですが、相手業者は任意売却についての理解が浅く、うまく買主に説明できなかった様です。
そこで相手仲介業者から、買主の所へ説明へ来てほしいと言われた為、一緒に行くことになりました。
買主曰く、「金額や瑕疵担保免責は納得しているが、債権者の抹消同意を特約に入れると、売主はそれを盾に何時でも解約できるから、こちらだけが債務を負担する片務契約だ」と主張します。
買主は、先に債権者の抹消同意を取ってから契約して欲しいと主張してきました。
買主の主張は一見筋が通っている様に思えますが、少し勘違いをしています。
まず前回申し上げた様に、任意売却の債権者は売買契約が締結されなくては、基本的に正式な抹消同意の稟議が書けません。
また、現時点で登記されていなくても引渡しまでの間に市役所などから「差押え」登記がされる事は珍しくありません。
つまり、買主の要求する契約前に債権者の抹消同意を得たとしても、この様な理由から特約に記載しない事は不可能なのです。
また、任意売却といえども、売主の気が変わって「売りたくない」と言えば、それは契約違反であり、その場合には違約金が発生します。当然、抹消同意を盾に契約解除する事もできません。
つまり、「債権者の抹消同意」とは売主の意思とは無関係なものなのです。